名古屋高等裁判所 昭和54年(ネ)217号 判決
控訴人
伊藤吉治
右訴訟代理人
野尻力
被控訴人
岡島竹治郎
外二名
右三名訴訟代理人
青木仁子
主文
原判決を取消す。
被控訴人らの請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因並びに抗弁1及び2の(1)、(2)についての当裁判所の認定も、原審の認定と同一であるので、この点についての原判決理由(原判決七枚目裏六行目以降同九枚目裏一行目まで)を、ここに引用する。
二そこで、本件土地の受戻権の時効消滅の主張について検討するに、譲渡担保提供者(債務者)は債務額を弁済して目的物を受戻すことを請求できるが、右権利は、いわゆる形成権と解され、民法一六七条二項により二〇年間これを行使しないときは、時効により消滅すると解するのが相当である(ちなみに、債務者は債務不履行の状態にあるのであるから、取引の安全を保護すべきであるとの観点からしても、受戻権は時効により消滅するものと解するのが相当である。)。
そうして、受戻権は、債務者が債権者に対し債務金の元利金及び遅延損害金等の全額を現実に提供して、受戻しの意思表示をなす方法により行使すべきもので、もとより債務の本旨に従つた弁済をなすべきものである。
ところで、前記引用にかかる認定から明らかなように岡島鉦三の本件債務の履行期は遅くとも昭和二九年一二月末に到来したものであるから、同人は遅くとも昭和三〇年一月一日以降は債務を弁済して担保物件の受戻を請求し得るというべきところ、同人が債務金の弁済として昭和四七年六月二〇日控訴人に対し金一〇万円(元金相当額)を現実に提供した事実は当事者間に争いがないが、前述のごとく同人は遅くとも昭和三〇年一月一日以降は遅滞におち入つているのであるから、右年月日以降の民法所定年五分の割合による遅延損害金をも含めて弁済すべきであり、右の提供は債務の本旨に従つた弁済とは言い得ない。しかるところ、右岡島がその後昭和五一年三月八日に至つて残債務を弁済したことは、当事者間に争いがないが、右弁済は二〇年の時効期間経過後になされたものであることは暦算上明らかであるから、本件土地の受戻権は時効によつて既に消滅したものとしなければならない。
してみれば、被控訴人らの本訴請求は失当であるから、棄却すべきである。
三よつて、右と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人らの本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(村上悦雄 小島裕史 春日民雄)